時代小説「欅風」(40)叡基とおしのの暮らし
狭野藩の南方の小山に廃寺があった。厳光和尚からこの廃寺を修復して叡基の住まい兼寺にしたらどうかと氏安に相談があった。氏安は厳光和尚に案内されて廃寺に行き、その後直ちに修復作業に入った。 「叡基殿が住み、仕事をし、そして修行をされるところだ。しっかり普請するように」...
時代小説「欅風」(39)新之助 江戸出張
新之助は産物組の組頭代理となって以来、藩内の産物の資料を作成した。どこで何が、いつ頃、どのくらいの量とれるか、把握しておく必要があったからだ。そのため朝から夕方迄出歩いた。農民、商工業者は新之助のお役目を承知していたので協力的だったが、藩内の商人達は警戒していた。藩庁が殖産...
時代小説「欅風」(38)次郎太と孝吉 品種改良に取り組む
次郎太の住んでいるところでも新田開発が盛んに行われていた。雑木林が伐採され、新田に変わっていった。丘の下草は見境なく刈られ、緑肥として新田の土に鋤きこまれていった。そのため木も枯れ、禿山になっていった。 「兄やんも心配していたが、このまま新田の開発が進んでいったら一体どうな...
時代小説「欅風」(37)波江 琵琶法師に出会う
波江と千恵は夕方、その日収穫した青物、土物を背中の籠に入れて町中に行商に出た。 人の目には親子に見えたことだろう。波江は歩きながら「今日取った新鮮な青物ですよ~。お安いですよ~」家々の水屋の近くに立ち寄り声を張り上げた。波江にとっては何分初めてのことで緊張していたのだろう、...
時代小説「欅風」(36)藩政改革推進 -その3 新経済政策
新之助は天岡文七郎、叡基と談合を重ね、今後の狭野藩の経済政策をまとめた。それは次のような内容になった。 1. 藩内価格を設定する 2. 特産品を開発し、大阪、江戸の大市場に販売する 3. 観光産業を育てる まず藩内価格の設定とは藩内で生活し、仕事をする領民の暮らしが成り立つ...
時代小説「欅風」(35)新之助 国許に帰国 三枝・八重と再会 藩政改革推進 -その2
新之助は江戸下屋敷の上司、同僚に見送られて江戸を立ち、東海道を下り、名古屋から亀山に向かい、奈良経由狭野藩の領地に足を踏み入れた。久しぶりに見る故郷の山だ。懐かしい山々が見える。新之助は思わず立ち止まり、山に叫んだ。 「今帰ったぞ~」...
時代小説「欅風」(34)新之助 国許に帰国 三枝・八重と再会 藩政改革推進 ―その1
新之助に国元から帰国命令が突然出た。国元に帰り、家族と一緒に暮らしたいという気持ちがたえずあったが、いざ帰国するとなると急に江戸が離れがたくなった。 何よりも才蔵、郷助、波江たちと別れなければならないのが辛い。それから何故突然帰国命令が出たのだろうか。上役の高橋信左衛門は「...
時代小説「欅風」(33)郷助 車椅子・義足・義手工場開設
狭野藩による北千住大川の堰堤補強工事が終わり、郷助の村も元の落ち着きを取り戻した。 田植えも終わり、夏の青物、土物も順調に生長している。才蔵はすっかり農作業に慣れ、作業も捗るようになった。 郷助は農作業の傍ら、車椅子、義足、義手の制作作業に追われていた。最近、その出来の良さ...
時代小説「欅風」(32)波江 孤児院開設 その二
「和尚様、不躾なことを申し上げて済みませんでした。こうして和尚様が私の話を聞いてくださることが同行二人なんですね。ありがたいことです。」照枝は波江の顔を見つめながら「波江さんのような方とも知り合いになれて私は嬉しいです。伝法院通りで助けて頂いてから何か強いご縁を感じていまし...
時代小説「欅風」(31)波江 孤児院開設 その一
ある朝、波江と千恵が慈光和尚の寺に畑で作業をしていた時、和尚が小さな男の子を連れてきた。背も低く痩せていた。 「ちょっと訳があってこの子を預かったのじゃが、寺でぶらぶらしているのもなんなのでこの子に農作業を教えてあげてくれんじゃろうか」...