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時代小説「欅風」(72)新之助 商売の手ごたえを感じる

 新之助が責任者になっている大和屋は繁盛とまではいかないが、客足の段々増えてきた。

 ある日、先日絹の敷布を売った薬種問屋の主人がやってきて、言う。

「お陰様で、家内が喜んでいます。絹の敷布はとても気持ちがいい、と。ところで、敷布は毎日使いますとどうしても汚れてきます。自分で洗えば良いのでしょうが、今の家内の状態ではそれも叶いません。もし、こちらで洗っていただければ助かるのですが、そんなこと、お願いできるものでしょうか」

 店主の順吉は話を聞いた後、言った。

「お困りのことをお話くださり、ありがとうございます。早速検討させて頂き、ご返事致します。」

 薬種問屋の主人が帰った後、順吉は外出し、一刻後戻ってきた。そして新之助に相談した。

「先日絹の敷布をお買い上げいただいたお客様から、使っているうちに汚れてくる敷布を洗ってくれないだろうか、とのご相談を受けました。木綿と違い、絹の洗いは別です。

 米ぬかで一枚一枚丁寧に押し洗いしなければ、絹を傷めてしまいます。それで以前萩屋にいた時、そのようなご相談を受けて絹を洗ったことがありました。

 萩屋のご主人に相談したところ、それならちょうどいい洗い屋がいるとのことで、いつでも紹介する、とのことでした。お客様とのつながりを強めるためには洗いまでお引き受けするのが良いかと思いますが、いかがでしょうか」

 新之助は、お客様を大切にするとはどんなことか、順吉の話を聞きながら、教えられた思いだった。

「この話、是非進めてほしい。新品を買って頂き、洗いもさせて頂く。これは絹の商いの場合、肝になることかもしれない。まずはその絹の洗い屋に詳しく話を聞いて、洗う前と洗った後の見本を準備するように頼んでくれないか。私達で実際に確かめてから、薬種問屋のご主人にお見せすることにしよう」

 大和屋では肌を白くする泥炭の小袋が人気商品になっていた。使ったご婦人が口伝えで広めてくれたらしい。

 新之助は大和屋の商いに手ごたえを感じ始めていた。

「これならやっていけるかもしれない」

 売り場ではお客様に購入して頂いた後すぐに店員が売立帳に取引内容を記載し、結界の中にいる賢次に売上代金を渡す。金銭出納担当者の賢次は金銀出入帳に記載する。営業終了後、夕食前に付き合わせをするが、時には勘定の合わない時もある。勘定が合う迄付き合わせは終らないので、若い店員の中にはオロオロするものもいる。間違って代金を頂いてしまう時がたまにあるのだ。特に忙しい時などそうした間違いが起こる。記憶を確かめなながら帳合いを正確に行なって、初めて今日の商いが終る。徳兵衛が厳しく仕込んだだけのことはある。賢次は計算が早く、仕事振りは正確だ。

 そして片づけをしてから夕食となる。


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