第二の故郷ものがたり

 

〜第3話 その2〜 

ログハウスオフイスでのミーティング

「第二の故郷」物語 

「初めてのワーケーション」

②ログハウスオフイスでのミーティング

翌朝、俊介は夜明けとともに目を覚ました。窓が明るい。いつもは目が覚めてもすぐ起きられないが、今朝は違った。時計を見ると午前5時。すぐ立ち上がり、窓を開けた。朝の爽やかな空気が部屋に流れ込んできた。今日からワ―ケーションの活動が始まる。頭の中で今日の流れをイメージした。俊介は東京にいる時にも同じように1日の流れをイメージするようにしている。
今日は天気が良いので民宿から自転車でログハウスに向かう。午前8時ログハウスの到着。1時間、ログハウスのオフィス・スペースの自分のデスクで伊東さんとの打ち合わせの準備をする。打ち合わせのための資料はA3サイズのシートで8枚準備した。内容はほぼ図式だ。今日は一番重要な、基本的なことを伊東さんと打ち合わせる。シート1から3迄使って計画案をまとめる。昼食は
町の食堂から届けてもらう。午後3時には今日の打ち合わせは終了して、伊東さんの農場を見学する。夜は民宿での夕食の後、ワ―ケーション・プロジェクトのコーディネイターの高梨さんから話を聞く。
ログハウスの管理スタッフが7時30分には来ていて、扉を開け、ポットに沸かしたお湯を入れてくれている。伊東さんが8時少し前に軽トラックで来た。コーヒーを飲んだ後、ログハウスのミーティングルームで打ち合わせを始める。
これから三日間毎日伊東さんとの打ち合わせだ。
プロジェクト名は「地域資源の活用・日本型スーパーフード農園の開設」。俊介はシート1から3迄をテーブルの上に置いて伊東さんに見せた。


シート 1:なぜ、今スーパーフードなのか 
シート 2:スーパーフードの種類とそれに適した地質・気候条件
シート 3:日本で栽培可能なスーパーフードの種類と栄養価


伊東さん「よくここまで図式化しましたね。ピラミッド、田の字、矢バネ、それにループと。作るのに大変だったことでしょう。これなら一緒にシートを見ながら、考えたり、アイデアを出したりできる。これはいい。ありがとうございます。」
俊介「確かにちょっと大変でしたが、不思議なことに図式化作業はやっていてなぜか楽しいんです。ただ大事なことは図式化の目的は、図を見ながら、もっと深く、もっと広く、場合によっては突拍子もないことを考えることにあります。図はあくまでも手段です。お互い図を見ながら、意見を交わし、画期的で、しかも実行可能、そしてビジネスとして十分成り立つ事業計画案をまとめて
いきましょう」

伊東「そういうことですね。私もこの図を見ながら知恵を絞ります。頑張りましょう。これから三日間、ワクワクしますね」
俊介「そう言って頂けるとうれしいです」
俊介は今日打ち合わせる3つの他に4から8迄のシートについても説明した。

 

シート4 :山梨県南部で栽培可能と思われる日本型スーパーフードの種類
シート5 :栽培方法、加工方法
シート6 :販売価格、販売チャンネルと販売方法、パートナー戦略
シート7 :事業の売上・収益計画、損失の限度額
シート8 :地域ブランド化のための方策


早速シート1の検討から入った。気がついたことをポストイットに書きつけて貼った。図の中に新しい線を引いた。2人の考えが一致したことをシートの余白に書き込んだ。熱中して話合ったり、考え込んだりしていた。そこに食堂の出前さんの声。昼食の弁当だ。既に11時半を過ぎている。あと30分打ち合わせをして12時から12時半迄ランチタイムとした。2人は午前中にシート

1と2の検討を終えた。ログハウスの外のテラスの木製テーブルで昼食。
ログハウスの前に拡がる森を見ながら、俊介は伊東に話かけた。
俊介「ここのワ―ケーションプロジェクトのコーディネイターの高梨さんは森の生活を実感するためにフィンランドに行ったと聞きました」
伊東「そうなんですよ。高梨さんは現代の都会に住み、働く人達にとって森での生活がどんなに大事か実感したと言ってました。今晩会うとか。」
俊介「そうなんです。どんな話が聞けるか楽しみです」
昼食後、3時迄シート3の検討に入った。栄養価とその効果については専門機関の科学的データが不可欠だ。データの入手と利用可能性を分担して調べることとした。初日の打ち合わせは予定通り午後3時に終了した。伊東さんは軽トラックの荷台に、俊介が今朝乗ってきた自転車を荷台に置いて、俊介を自分の農場に連れていった。
このあたりは平地が少ない。伊東さんは田んぼとか畑に適している場所ではなく、あえて山の尾根のような傾斜地を開拓して主にスーパーフード的野菜を栽培している。
伊東さんは言う。
「地元の皆さんが営々と作り上げてきた農地を大切にしたいと思っているんです。いま高齢者の皆さんが農作業している田んぼにも畑にもいつか若い人たちが戻ってきて後を継いで、昔のように農作業をする、そんな時代がまたきっとやってくる・・・そう信じているからです」
俊介は伊東さんの畑を歩きながら、伊東さんのここまでくるまでの努力と苦労を思わずにはいられなかった。伊東さんの段々畑を歩いて見て廻った。一番下の畑はモリンガ、その上はえごま、その上はビーツ、さらにその上は秋ウコンだった。
ざっと見て畑の面積は2反歩ぐらいだろうか。一番多くの面積を占めているのはえごまだった。
まだ畑を開拓するスペースはありますよ、と伊東さんは笑いながら言う。
農場を見学した後、伊東さんは民宿迄軽トラックで俊介を送ってくれた。夕食迄の時間、自分の部屋で今日伊東さんと話した内容をシートを見ながら確認した。
やはり一人で考えているとどうしても主観的になるし、限界もある。今日伊東さんと打ち合わせできて良かった、改めて思ったことだ。
夕食はソバとお皿一杯の野菜の天ぷら、とろろ汁がついている。全部地元で採れたものとのこと。デザートは桃。
食後、高梨さんがやってきた。囲炉裏に座って高梨さんの話を聞く。高梨さん「今日はお話の機会をつくってくださりありがとうございます。
フィンランドには3ヶ月ほどいました。フィンランドにも民宿的施設があり、私はある家庭の1室を借りてそこで過ごしました。ただ泊まるだけの部屋でしたが、床も壁も天井も全部木板が張ってあって、とても気持ちが良かったことを覚えています。その家から私はフィンランドの自然生活研究所に毎日通い、ワ―ケーションプログラムに参加して勉強しました。部屋の中での講義の後、外
に出て森の中でのワークショップが毎日ありました。講師の先生は森についていつもこう言っていました。
「森は私たちの心と身体を癒し、浄めてくれるとても大切な場所です。現代人は日々の生活の中で、残念なことですが、森から遠く離れ、森の中での生活を失っています。森は恐ろしい場所ではありません。敢えていうなら神聖で、とくべつなところです。一度森の中で生活してみればそれは分かることです。私たち人類は森に守られて生きてきました。このワ―ケーションプログラムに参
加される方には是非そのことを知って、体験して頂きたいと思います」
俊介「日本人で参加された方は他にいましたか」

高梨「今回は私だけでしたが、外国から大勢の方が参加されていました。アメリカ、カナダ。ヨーロッパからはイタリア、ハンガリー、イギリス、フランス、オーストリア、それからオーストラリア。東南アジアからは韓国、シンガポ
ールだったでしょうか」
高梨さんとの話は尽きなかった。時計は午後9時半を回っていた。高梨さんとはまた話す機会をもちましょうと約束して別れた。
今日は一番遅い風呂に入り、寝る前に今日一日を振り返り、日記をつけた。布団に横になったのは11時だった。
翌日も伊東さんとの打ち合わせは午前8時から始まった。今日はシート4から
6迄。シート4と5は現在伊東さんの農場で栽培している日本型スーパーフードの種類と栽培方法、加工方法について再確認の意味も含めて伊東さんから説明があった。また栽培方法についても伊東さんから自分の農場で行っている有機栽培の方法について説明があった。一番検討に時間がかかったのはシート6の販売についてだった。現在は道の駅での販売、ネットでの販売が中心になっ
ている。今後のことを考えると安定的に購入してくれるユーザーが必要だ。さらに販路開拓にあたってしっかりしたパートナーがいてくれれば心強い。話合いながらユーザーとパートナーについていくつかの候補を上げた。プレゼンのための資料をつくることにした。今日も出前の昼食を食べながらの会議となった。午後3時には今日の分は終わり、ログハウスの前で別れた。伊東さん「やっぱり販売ですね。いくら一生懸命つくっても売れなければ回っていかない」
俊介「伊東さんが販売で苦労されていることは私も良く分かります。山梨県産の日本型スーパ―フードに合った販売方法を考えていきましょう。このプロジェクト実現の最大の鍵は独自の販売方法にあるのではないか、そんな感じがしています。」
ログハウスでの会議の後、俊介は自転車に乗って町の中のサイクリングロードを走ることにした。サイクリングロードは4コースある。打ち合わせで頭の方が疲れていた。気分転換をしたかったので森の中を走るサイクリング・ロードに向かった。森の道に入るとひんやりした。ゆっくり走っているうちに疲れが消えていった。
夕方民宿に戻り夕食を摂った。今晩はこの町の名物料理「イノシシ肉のすき焼き」
だった。ジビエ料理だ。思っていたほど肉は硬くない。美味しく食べられた。
今晩の宿泊客は私一人ということなので、食後民宿の縁側でお茶を飲みながらボンヤリした。
真理に電話をかけた。
俊介「ぼく。昨晩は電話できなくてごめん。変わりない?」
真理「いそがしそうね。こちらは変わりありません。仕事は捗っている?」
俊介「順調だよ。いい企画書が作れそうだ」
真理「良かった。ワ―ケーションなんだから仕事ばっかりでなく、自然の中で
の生活も存分に楽しんできてくださいね」
俊介「そうする。それじゃお休み」
風呂に入り、寝る前に今日一日を振り返り、日記をつけた。布団に横になったのは10時だった。布団の上で考え続けていたのは伊東さんのスーパーフード農園を観光資源にできないだろうか、ということだった。

考えているうちに眠りに落ちた。(続く)

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