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私の徒然草 第6話「美しい夕焼け」

 畑からの帰り道は新河岸川の土手の道だ。土手の道は川の水面より数メートル高くアスファルトで舗装されている。川に架かっている橋の向こう岸の土手の右側に教会の十字架がポツンと見える。畑での作業が終わった夕暮れに、この土手の道で自転車を停めて夕焼けを眺めることが多い。大空が広がっている。美しい夕焼けを暫く見ながら、今日も一日無事に終わったことを実感する。


 聖書の「創世記」1章に天と地の創造の記述がある。以前読んだ時はなぜ第一日について「夕べがあり、朝があった」なのか。順序としては「朝があり、夕べがあった」の方が自然ではないか、そんな疑問を持った。


 齢をとってきたこともあるが、夜明けよりも夕焼けに感慨が深くなってきている。

 78歳になったのを機に生活パターンを早寝早起きに切り替えた。夜は9時30分迄に就寝、翌朝は4時30分に起床。7時間睡眠を確保している。夜が明け、朝陽が昇ってくるのを見るのはやはり嬉しいものだ。今日も新しい命を与えられている、という喜び。「今、ここを生きる」「今日一日を生きる」という気持ちで今日一日に向き合っていく。何が起こるか分からない今日一日に対して、「こんなことを今日はやりたい」という計画、希望持って一日を始めるが、それなりの緊張感、場合によっては不安感もある。

 一方夕方は今日一日が終わり、様々なことを体験した。体験することができた。多くの方と出会い、また助けて頂いた。夕焼けはいろいろなことがあったが、それも全部ひっくるめて、今日も一日無事に終わったことを実感させてくれる。橙色、茜色に染まった雲を見ながら、思わず感謝の言葉が心の底から湧いてくる。


「創世記」1章の「夕べがあり、朝があった」は感謝を持って一日を終わり、希望を持って一日を始めることの深い意味を教えているのではないだろうか。感謝から生まれる希望。感謝には大いなる存在への信頼がある。それも全き信頼。希望にはどんなことがあっても乗り越えていく、という決意が込められている。


 長いビジネスマン生活の後、「半農半X」の人生を選んだ。農作業をしながら、自分が本当にやりたい仕事もやり続ける、というライフスタイルだ。農作業をしているお陰で適度に身体が疲れているためか、夜はぐっすり眠ることができる。午前中は「半X」の仕事に取り組み、午後は週3日、都内の屋上菜園でメンバーの皆さんと一緒に栽培指導・管理をしている。「半X」は日本型ビジネスモデルを活用した日本の「地方再生」だ。


 日本は第二次世界大戦で敗戦。国土は焦土と化した。その日本を経済復興させるために「ああ、上野駅」という歌に象徴されるように多くの若者が地方を離れて東京、大阪など大都会に流れ込んで働いた。父親もその一人だ。栃木県のS市の農家の長男として生まれたが、農業を継がずに、東京に出てきて建設資材の販売店を始めた。


 これからの時代は逆の流れ、東京の人々が地方のために貢献することが期待され、求められている。その地方ならではの事業を起こし、発展させる。その地方ならでは、というところが重要だ。そして豊かな自然とコミュニティを活用したビジネスモデル。これが私にとってライフワークとなっている。生きている限り、一歩でも前に進んでいきたい。


(了)

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