時代小説「欅風」(8)波江の秘密
波江は花橘の勤めが終わると急ぎ、板橋の農家の離れに戻り、夜の「三福」の客のための準備に取り掛かった。お店で料理するための青物、土物を畑に行って収穫し、揃えた。お品書きはその日畑でとれた青物、土物で決めた。 波江は肥前の平戸島で生まれ、娘の頃、キリシタンの伝道に触れ耶蘇教に惹...
時代小説「欅風」(7)江戸市中散歩・その一
久し振りの非番の日。新之助は西新井大師詣でに行くことにした。勤番長屋の自分の部屋を掃除した後、藩の下屋敷を四つ時に出て歩き始めた。出かけに忘れず武鑑を懐に入れた。下屋敷を出たのは四つ時だった。 「今日は何も予定がない。物見遊山を兼ねてゆっくり参ろう」...
JVECの屋上菜園活動の概況(2023年5月現在)
現在JVECは都内7ヶ所、北千住、銀座、お茶の水、神田、渋谷、押上、浅草、千葉県1ヶ所の計8ヶ所で屋上菜園活動をしています。栽培面積は合計で230m²となります。 スタートしてから全ての屋上菜園で活動が継続しています。一番長い北千住の商業ビルは18年間続いています。...
時代小説「欅風」(6)青物問答・その二
高田修理は郷助に声をかけていた。 「いつも済まんな。助かる。殿が前裁畑の青物、土物を楽しみにしておられる。先ほど梅雨時の青物の病気に気をつけるようにと言っておったが、今年は特にナメクジが多いようだ。それに葉の表面に多角形の黄斑が出てきておる。ナメクジは見付け次第取り除いてお...
時代小説「欅風」(5)青物問答・その一
毎週金曜日は青物組の者が集まり、翌週の農作業の打ち合わせをするきまりになっている。組頭の高田修理の下に二人一組、都合五班あり、全部で十名で下屋敷内の前栽畑の農作業をしている。十名全員定刻に揃ったところで、高田修理から話があった。...
時代小説「欅風」(4)狭野騒動
狭野藩は石高一万石の小藩ではあったが、元を正せば戦国時代の英雄を藩祖に持つ由緒ある藩だ。豊臣秀吉に攻められ、主戦派と和平派の評定が続く内に兵糧攻めの結果、已む無く降伏。主戦派は切腹となり、和平派は切腹を免れ、高野山に流された後、秀吉の計らいで大阪の南の地に藩土を与えられた。...
時代小説「欅風」(3)青物組相手・木賀才蔵
青物組は二人一組で農作業をするきまりだ。新之助の相手が木賀才蔵なのだが、才蔵は近頃気の病というか、元気がない。時々「自分は生きていてもしょうがない」とか「死にたい」と口走ることがある。鬱々としているが、かと言って寝込む程ではない。下屋敷の勤めは国許と違い、出殿勤務と留守居勤...
私の徒然草 第4話「高齢期こそ肯定感を持った生き方」
人によってそれぞれの生き方があるが、私が今心掛けていることは、自分の人生にかかわること、また私の人間関係の中で、全てのことに肯定的に対応するということだ。肯定的とは批判的、否定的に対応するのではなく、ありのままに肯定的に受けとめ、前向きに対応するといったら良いだろうか。キッ...
時代小説「欅風」(2)初物
「三福」の暖簾を潜り、店に入ると、まだ時間が早いせいか、女将の波江が大皿に料理を盛り付けていた。「いらっしゃいませ。戸部様。今日は少し早いですね」波江は明るく微笑んで、新之助に視線を送った。 「今日は気分を変えたくてね。お勤めはそこそこで切り上げて、大川の堤を歩いて川風に吹...
時代小説「欅風」(1)青物侍
戸部新之助は夕暮れの風が吹き始めた大川の堤を高ぶった感情を冷ますかのように歩いていた。薄暮の景色の中、堤の下に並ぶ店先に橙色の提灯が下げられ、夜の賑やかさが漂い始めている。 (なぜ自分はいつも評定の時に余計なことを言ってしまうのだろうか。あのようなことを言ったために皆の不興...