時代小説「欅風」(26)大阪城修復普請 氏安陣頭指揮
氏安は日記をつけ続けていた。それは自分との約束だった。最初は弱音を吐く自分をもう一人の自分が叱咤激励するような内容だったが、最近は自分と天との会話が多くなってきた。そして法全和尚から差し入れられた三国志演義を、特に諸葛孔明を中心に読んでいる。...
時代小説「欅風」(25)大川普請竣工 叡基事故に泣く
新之助は普請小屋で寝起きしていた。毎日忙しく過ごしていた。もう直ぐ普請も終わる。そうすれば元の生活に戻ることができる。ある晩、久し振りに夢を見た。妻の三枝と八重と一緒に狭山池の土手に座り、夕焼けを見ていた。握り飯と竹筒に入れた井戸水を三枝は持ってきた。池の水面に夕焼けが映り...
時代小説「欅風」(24)切手引き受け軌道に乗るか 郷助組の活躍
天岡文七郎は庄屋と米商人一人一人を訪問し、切手の裏づけとなる米の提供を求めていた。 断られた庄屋にもう一度ひざ詰めで説得を試みていた。諦める訳には行かないのだ。 庄屋の松田仁作はほとほと困ったという顔をして、 「天岡様がいくら大丈夫だと言われても、そもそもお出しする米があり...
時代小説「欅風」(23)狭野藩国許の不作 叡基千住大川で奮闘
狭野藩の稲作は夏の長雨のためかイモチ病が流行り、例年を下回る不作となった。氏安は飯野家老から報告を受けた後、しばらく考え込んだ。領民を飢えさせてならない、これが第一だ。 狭野藩は四公六民政策をとっており、藩の財政状況も一段と厳しくなる。しかし切手を財政の赤字補填のために使う...
時代小説「欅風」(22)波江 寺の一角の小さな畑を手伝う
波江は「三福」の店を畳むことを考え始めていた。柴橋和左衛門の店である「花橘」での勤めは続けたいのだが、妾になる話を断った以上、これからどうなるか不安だった。そんなある朝のこと、波江が畑仕事と千恵と一緒にしていた時、畑の隣に立っている寺の和尚が声をかけてきた。...
時代小説「欅風」(21)狭野藩 切手不調
天岡文七郎は、今日は庄屋の平清次郎ところに行き、ひざ詰めで切手の説明をした。 「理屈は良く分かりますが、実際それができるかどうかは別問題です。切手は要するに藩札ということでしょうか。藩札なら他の藩でも藩の不足のために使われています。去って還らざる、ということになるのでは。そ...