時代小説「欅風」(16)波江・新しい生活-2
朝早く、波江は千恵を連れて京太、菊枝夫婦のところに挨拶に行った。 「私の知り合いの娘さんです。訳あって両親と離れ離れで暮らすことになりました。それで暫く預かることにしたいと思いますので、よろしくお願いします。決してご迷惑はおかけ致しません。千恵と言います」...
時代小説「欅風」(15)波江・新しい生活-1
波江は次の晩、千恵の来るのを待っていた。しかし、千恵はなかなか来なかった。 「どうしているだろう?」 暗がりの中から急に姿を現すのではないかと、探し出すように視線を送っていた。今晩はまだ客が誰も来ていない。 そこに新之助がやってきた。...
時代小説「欅風」(14)氏安と叡基 土木工事問答
法全和尚から叡基が戻ってきたという知らせが入った。氏安はすぐに使いを出した。法全和尚に連れられて叡基はやってきた。叡基は氏安の顔を見ると、軽く頭を下げた。 「叡基にございます」顔をあげるとまっすぐに氏安の顔を見つめた。 「叡基殿。お会いできるのを心待ちにしていました」そう言...
時代小説「欅風」(13)新之助 郷助と炉辺話その二
炉辺での食事の後、お茶を飲みながら、郷助は語り始めた。 「近頃江戸には諸国からどんどん人が集まってきています。諸国から江戸詰めのお侍、普請のための人夫、それを目当てにした物売り。お侍、町人が使う料亭で働く者達。大変な勢いですだ。そこで最近では青物もいろいろな場所で市が立つよ...
時代小説「欅風」(12)新之助・才蔵 郷助と炉辺話その一
青物組の新之助と才蔵の二人に郷助から、青物、土物の栽培について話したいことがあるので、家にお招きしたいとの申し出があった。 新之助は組頭の高田修理に許可を求めた。修理は「良く話を聞いてくるのだぞ」すぐに許可を出した。 翌日昼頃、郷助は下屋敷迄迎えに来てくれた。...
時代小説「欅風」(11)波江・身辺変化その二
二週間後、やっと床払いができた。まだ少しふらふらしたが、波江はまず母屋に挨拶に行った。「お陰様で元気になりました。何とお礼を申し上げたらいいのか・・・、本当にありがとうございました」 菊枝がいた。「まだ病み上がりなんだから、無理をしてはいけねえだよ」...