時代小説「欅風」(34)新之助 国許に帰国 三枝・八重と再会 藩政改革推進 ―その1
新之助に国元から帰国命令が突然出た。国元に帰り、家族と一緒に暮らしたいという気持ちがたえずあったが、いざ帰国するとなると急に江戸が離れがたくなった。 何よりも才蔵、郷助、波江たちと別れなければならないのが辛い。それから何故突然帰国命令が出たのだろうか。上役の高橋信左衛門は「...
時代小説「欅風」(33)郷助 車椅子・義足・義手工場開設
狭野藩による北千住大川の堰堤補強工事が終わり、郷助の村も元の落ち着きを取り戻した。 田植えも終わり、夏の青物、土物も順調に生長している。才蔵はすっかり農作業に慣れ、作業も捗るようになった。 郷助は農作業の傍ら、車椅子、義足、義手の制作作業に追われていた。最近、その出来の良さ...
私の徒然草 第6話「美しい夕焼け」
畑からの帰り道は新河岸川の土手の道だ。土手の道は川の水面より数メートル高くアスファルトで舗装されている。川に架かっている橋の向こう岸の土手の右側に教会の十字架がポツンと見える。畑での作業が終わった夕暮れに、この土手の道で自転車を停めて夕焼けを眺めることが多い。大空が広がって...
時代小説「欅風」(32)波江 孤児院開設 その二
「和尚様、不躾なことを申し上げて済みませんでした。こうして和尚様が私の話を聞いてくださることが同行二人なんですね。ありがたいことです。」照枝は波江の顔を見つめながら「波江さんのような方とも知り合いになれて私は嬉しいです。伝法院通りで助けて頂いてから何か強いご縁を感じていまし...
時代小説「欅風」(31)波江 孤児院開設 その一
ある朝、波江と千恵が慈光和尚の寺に畑で作業をしていた時、和尚が小さな男の子を連れてきた。背も低く痩せていた。 「ちょっと訳があってこの子を預かったのじゃが、寺でぶらぶらしているのもなんなのでこの子に農作業を教えてあげてくれんじゃろうか」...
時代小説「欅風」(30)大阪城修築・真田丸片付け作業 その二
それからの日々、氏安は夢を見なくなった。真田丸の片付けもほぼ目途がついた頃、氏安は久し振りで夢を見た。 「あと三日もすれば片付けの作業も終わります。最後に一つだけお教えください。天王寺口の戦いの時、なぜ大御所の本陣に突入することができたのですか。」...
時代小説「欅風」(29)大阪城修築・真田丸片付け作業 その一
氏安は大阪城近くの久宝寺町に狭野藩の出先を構え、その周辺に侍、人足の宿泊所を確保した。久宝寺町は氏規がかつて政務をとっていたところであった。 毎朝、他の藩よりも早く大阪城の普請場に向かった。真田丸の廃墟の跡に入る時、武士と人足は深深と頭を下げ、祈った。氏安はその姿を見た藤堂...
時代小説「欅風」(28)才蔵と次郎太
才蔵は夕食の後、囲炉裏のところでどこかションボリしていた。次郎太は暫く様子を見ていた。タケがお茶をすすめ、才蔵が飲み終わったところで声をかけた。 「ちょっと外に出てみべえ」 「今から何をしに」 「外は気持ち良さそうな風が吹いている。夜空も晴れているだろうし」 「そうですな」...
時代小説「欅風」(27)波江の試練(1)
キリシタン探索の動きが本格化していることが波江のこころを一層緊張させていた。今は自分一人ではない。京太、菊枝夫婦に迷惑をかけてはならない。そして千恵を守らなければならないのだ。波江はある決意をした。それは万が一に備えて千恵の信仰を守ることだった。...