時代小説「欅風」(52) 新之助 店勤め
萩屋の主人、徳兵衛から新之助に萩屋で仕事をするにあたって話があった。 「戸部様の店でのお名前はお客様の手前もありますから、失礼かと存じますが新蔵とさせて頂きます。急ぎの時は新さんとお呼びすることもあろうかと思います。いかがでしょうか。立場は番頭の繁蔵の付き人ということでお願...
時代小説「欅風」(51) 慈光和尚の人生行路 その一
慈光和尚は穏やかな笑顔で波江を迎え、本堂の隣の部屋に案内した。 「最近、檀家から新茶を頂きましてな。ついてはいつも寺の畑の世話でご苦労をお掛けしている波江さんとご一緒に茶を飲みたいと思っていたところです。お声をかけたいと思っていました。これも御仏のお導きでしょうか」...
時代小説「欅風」(50) 桑名村の建て直し その一
天岡は部下の松本数馬を連れて桑名村に向かった。今回の狭野藩の立場はあくまで郡代の相談役と言う立場であった。郡代の澁谷達之進はいかにも役人風の男で、実力というより回りの引きで出世してきたような人物だった。口癖は「それは先例があるのか」「波風を立ててはいけない」「それはワシの責...
時代小説「欅風」(49) 新之助 江戸商人になる
江戸小田原町近くに呉服店「萩屋」がある。店主の徳兵衛は既に50歳を過ぎている小柄な人物だった。小田原町には繁盛している魚屋が数軒あり、江戸前の魚介類が毎朝店先に並べられ、威勢の良い売り子の声が途切れることがない。魚屋の先には小間物屋が続き、その隣に普段着用の呉服屋「萩屋」が...
私の徒然草 第7話「一日一日を区切って生きる」
今回は「一日一生」というテーマで書きたいと思いますが、これはネットで調べると割と出ています。この言葉の語源は何かと思って調べてみたのですが、すぐには見つかりませんでした。ネットなどの解釈を見ると「今日を最後の1日と考えて、悔いのないように生きましょう」というものがありました...
時代小説「欅風」(48) 波江の苦悩と逃れの道
ある月も雲に隠れた晩、波江は戸にシンバリ棒を掛けるために土間に下りた。その時、人の慌しい足音が聞こえた。波江の住んでいる離れの近くに人がいるらしい。波江はそっと戸を開けて、外を覗った。誰もいない。外に出てなお確かめようとした時、家の影に蹲っている人の姿があった。足を怪我して...
時代小説「欅風」(47) 才蔵 武士の身分を返上
才蔵は江戸下屋敷の徳田家老からの手紙を受け取った。文面には「1週間以内に江戸下屋敷に来るように」と書いてあった。才蔵は郷助の家族と暮らすうちに、自分は武士ではなく農民になった方が良いのではないかと思い始めていた。才蔵は気の病からは一生解放されないのではないかと諦めていたが、...
時代小説「欅風」(46) 氏安 叡基の寺を訪ねる
氏安は江戸城登城の一件を叡基に伝えるため、叡基に住む寺に向かった。使いの者を事前に送り、訪問の件を伝えていた。叡基は氏安と伴の者を認めると、出迎えに道を降りてきた。 「わざわざお越しくださるとは恐縮に存じます」 部屋に通された氏安は簡素だが、すがすがしい趣きに思わず言った。...
時代小説「欅風」(45) 氏安 幕府に呼び出される
大阪城真田丸の片付け普請の後、幕府からの下命はなく、氏安は平穏の日々を送っていた。しかし心中では「このまま何も無いということはないだろう」と思っていた。 そこへ幕府から、直ちに江戸城に来るようにとの書状が届いた。署名は「老中 土井利勝」となっていた。...
時代小説「欅風」(44) 郷助、次郎太と孝吉と才蔵に青物市場談話
郷助は作業所の建設が一段落した後、青物市場について話しておきたいと夕餉の後、三人を集めた。次郎太、孝吉、才蔵を前にして、郷助は話し始めた。 「今迄、俺がやってきたことを三人に話しておきたいと思うだ。今日は青物の取引について話すので、聞いてくれ。最近いろいろな変化が生まれてい...