時代小説「欅風」(74)波江・この世の人生への問い
波江は毎日早朝から深夜まで働き詰めだ。何時寝ているのか分からないくらいで、千恵が心配して聞く。何かに憑かれたかのように、いや何かから逃れるかのように働いている。 「お母さん、いつ寝ているの?大丈夫?」 「千恵ちゃん、大丈夫よ。ちゃんと寝ているわ」...
時代小説「欅風」(73)郷助の作業場と源次の帰郷
郷助の作業場で働いている助手達は腕を上げていった。特に大船渡の源次はもともと大工だったこともあり、もう一人で車椅子、義手、義足をつくることができるようになっていた。最近は片足を無くした農民から松葉杖をつくってほしいとの注文もあった。毎日作業に追われる日々が続いていた。作業場...
時代小説「欅風」(72)新之助 商売の手ごたえを感じる
新之助が責任者になっている大和屋は繁盛とまではいかないが、客足の段々増えてきた。 ある日、先日絹の敷布を売った薬種問屋の主人がやってきて、言う。 「お陰様で、家内が喜んでいます。絹の敷布はとても気持ちがいい、と。ところで、敷布は毎日使いますとどうしても汚れてきます。自分で洗...
時代小説「欅風」(71)天岡の村請制と助郷制度改革
天岡は氏安から指示を受け、桑名44村の村請制と助郷制度についての改革案をまとめていた。割当てられた石高は検地で決まっている。石高の引き下げは認められる筋合いのものではなかった。石高は常に実際より高めに決められていた。以前九州の天領の一つ、天草で現実を考慮しない余りに高い石高...
時代小説「欅風」(70)才蔵の生き甲斐
一年が経った。 才蔵は郷助の畑で次郎太、孝吉と一緒に農作業に汗を流し、郷助の作業場で郷助を助け、最初は月1回だったが、最近では月二回、波江の寺子屋で和算を教えている。 寺子屋への行き帰り、才蔵は「我ながらこのような日がくるとは 思っていなかった」。労働に励み、人々の笑顔に接...
時代小説「欅風」(69)藩の祭・様子
狭野藩は一万石のまことに小さな藩だ。そのような藩を豊かにするためには、物産の輸出だけではなく、大阪、京都など近在の町から、また村から来てもらい、お金を落としてもらえるような仕組み、施設をつくらなければならない。 そのため年二回、狭山池での祭りを開催している。春、桜が満開の頃...