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私の徒然草 第1話「屋上菜園は小さな仕事」

屋上菜園の仕事をしている。始めてからもう18年になる。いつの間にか18年間が過ぎ去っていったというのが実感だ。長い期間だったようにも思うが、アッと言う間のような感じもある。まさに人生は「束の間」かもしれない。

さて屋上菜園の仕事はいわば「小さな仕事」だ。経済社会を賑わしている大きな仕事と比べると吹けば飛ぶような仕事かもしれない。利益の上がる仕事でない。なぜそのような仕事にこだわり続け、18年間もやってきたのか。また来れたのか。自分自身もまだ説得力のある説明はできないが、直観的には3つほど理由がありそうだ。

一つは野菜の持っている生命力だ。根を伸ばし、葉を拡げ、花を咲かせて、実をつけていく生命力。もう一つは食べ物として人間に貢献する姿と言ったら良いだろうか。3つ目の理由は最近医学的に実証された癒し効果。野菜栽培がストレス軽減と幸福ホルモンの分泌を促す効果だ。私自身ストレスを抱えやすいタイプだ。今迄の人生、ストレスでダウンすることが多かった。

私自身は途中から農作業に関わった者だ。それまでは鉄鋼建材の営業マン、そして販売店の経営者だった。経営していた会社の廃業後、私の心の中には野菜の力によって今迄生きながらえてきた、という実感がある。いろいろな経緯があって屋上菜園の仕事に取り組むことになった。今ではそれで良かったと思っている。新型コロナの時代、人は改めてどのように生きるか、問われているように思う。特に日本は現在高齢化社会になっている。高齢者の生き甲斐、社会との関係がますます重要な課題になってきている。

高度成長期、日本の高度成長を支えるために奮闘した私たちの世代。家庭を顧みることが少なく、仕事、仕事の人生だった。そして定年。定年後、まったく仕事はしないで、悠々自適の人生をおくる人達もいる。それができる人はいいが、私はやはり無理のない範囲で仕事をして、今迄したくてもできなかった精神的にも、経済的にも豊かな生活をして、日常生活の中で幸せを感じながら過ごしたいと願っている。

私たちの屋上菜園は小さな仕事だが、屋上菜園で収穫できる有機野菜は栽培している人の健康に役立つ、身近な仕事だ。生活の基礎的部分(食べ物)に属する質の高い仕事とも言える。

これから老人ホームを初めとして事務所ビル、商業ビル、レストランなど都会で屋上菜園を一つ一つ増やしていきたい。屋上菜園に限らず生活の基礎的部分に属する仕事の価値が見直される時代になってきているのではないか。さきほど3つの理由と書いたが、もう一つ追加したい。屋上菜園は小さな仕事だから、私は多くの友を得ることができた。幸せを感じている。

これからの日本社会は小さな仕事に喜びとやりがいを感じる人々によって新しい、堅実な道を歩むのではないだろうか。またそうあってほしい。


(了)


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