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時代小説「欅風」まえがき

江戸時代は士農工商の時代でしたが、武士が江戸の下屋敷で野菜栽培に関わっていた、という話を何かで知りました。当時私は会社経営という実業の世界から身を引いて、気分転換も兼ねて家の近くの畑を借りて、農作業をしていました。農作業をしながら、江戸下屋敷の武士はどんな気持ちで農作業をしていたのだろう、そんなことを考え始めました。農作業を続けていく中で武士の心境にどんな変化が生まれていったか、どんな新しい人間関係が築かれていったのか、そして人間にとって「農」とは一体何なのか。この問いはビジネスの世界から離れた自分自身に対する問いになりました。

その頃、用事があって訪問した大阪府の南部にある町の前に広がる美しい田園風景を見ながら、ここを舞台に時代小説を書きたい、という思いになりました。この場所を架空の藩ですが、小説の中では狭野藩としました。小さな藩です。


この小説は全部で80話になります。当時の私にとってこの小説を書くことが人生の空しさに耐える精神的な力となりました。書くことで崩れそうになる自分を支える、と言ったら良いでしょうか。書いているうちに登場人物が私の思いから離れて自立し、登場人物が私に登場人物自身の思いを書かせる、といったら良いようなちょっと不思議な体験をしました。

この時代小説は私の人生の証の一つです。ホームページにこれから毎週2話を掲載していきます。


皆さんにはどうか気楽な気持ちで読んでいただけたら幸いです。





2023年5月15日 阿部義通

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