

時代小説「欅風」(30)大阪城修築・真田丸片付け作業 その二
それからの日々、氏安は夢を見なくなった。真田丸の片付けもほぼ目途がついた頃、氏安は久し振りで夢を見た。 「あと三日もすれば片付けの作業も終わります。最後に一つだけお教えください。天王寺口の戦いの時、なぜ大御所の本陣に突入することができたのですか。」...


時代小説「欅風」(29)大阪城修築・真田丸片付け作業 その一
氏安は大阪城近くの久宝寺町に狭野藩の出先を構え、その周辺に侍、人足の宿泊所を確保した。久宝寺町は氏規がかつて政務をとっていたところであった。 毎朝、他の藩よりも早く大阪城の普請場に向かった。真田丸の廃墟の跡に入る時、武士と人足は深深と頭を下げ、祈った。氏安はその姿を見た藤堂...


時代小説「欅風」(28)才蔵と次郎太
才蔵は夕食の後、囲炉裏のところでどこかションボリしていた。次郎太は暫く様子を見ていた。タケがお茶をすすめ、才蔵が飲み終わったところで声をかけた。 「ちょっと外に出てみべえ」 「今から何をしに」 「外は気持ち良さそうな風が吹いている。夜空も晴れているだろうし」 「そうですな」...


時代小説「欅風」(27)波江の試練(1)
キリシタン探索の動きが本格化していることが波江のこころを一層緊張させていた。今は自分一人ではない。京太、菊枝夫婦に迷惑をかけてはならない。そして千恵を守らなければならないのだ。波江はある決意をした。それは万が一に備えて千恵の信仰を守ることだった。...


時代小説「欅風」(26)大阪城修復普請 氏安陣頭指揮
氏安は日記をつけ続けていた。それは自分との約束だった。最初は弱音を吐く自分をもう一人の自分が叱咤激励するような内容だったが、最近は自分と天との会話が多くなってきた。そして法全和尚から差し入れられた三国志演義を、特に諸葛孔明を中心に読んでいる。...


時代小説「欅風」(25)大川普請竣工 叡基事故に泣く
新之助は普請小屋で寝起きしていた。毎日忙しく過ごしていた。もう直ぐ普請も終わる。そうすれば元の生活に戻ることができる。ある晩、久し振りに夢を見た。妻の三枝と八重と一緒に狭山池の土手に座り、夕焼けを見ていた。握り飯と竹筒に入れた井戸水を三枝は持ってきた。池の水面に夕焼けが映り...


時代小説「欅風」(24)切手引き受け軌道に乗るか 郷助組の活躍
天岡文七郎は庄屋と米商人一人一人を訪問し、切手の裏づけとなる米の提供を求めていた。 断られた庄屋にもう一度ひざ詰めで説得を試みていた。諦める訳には行かないのだ。 庄屋の松田仁作はほとほと困ったという顔をして、 「天岡様がいくら大丈夫だと言われても、そもそもお出しする米があり...


時代小説「欅風」(23)狭野藩国許の不作 叡基千住大川で奮闘
狭野藩の稲作は夏の長雨のためかイモチ病が流行り、例年を下回る不作となった。氏安は飯野家老から報告を受けた後、しばらく考え込んだ。領民を飢えさせてならない、これが第一だ。 狭野藩は四公六民政策をとっており、藩の財政状況も一段と厳しくなる。しかし切手を財政の赤字補填のために使う...


時代小説「欅風」(22)波江 寺の一角の小さな畑を手伝う
波江は「三福」の店を畳むことを考え始めていた。柴橋和左衛門の店である「花橘」での勤めは続けたいのだが、妾になる話を断った以上、これからどうなるか不安だった。そんなある朝のこと、波江が畑仕事と千恵と一緒にしていた時、畑の隣に立っている寺の和尚が声をかけてきた。...


時代小説「欅風」(21)狭野藩 切手不調
天岡文七郎は、今日は庄屋の平清次郎ところに行き、ひざ詰めで切手の説明をした。 「理屈は良く分かりますが、実際それができるかどうかは別問題です。切手は要するに藩札ということでしょうか。藩札なら他の藩でも藩の不足のために使われています。去って還らざる、ということになるのでは。そ...