

時代小説「欅風」(20)木賀才蔵 自殺未遂
千住の普請場に居る新之助のところに下屋敷から使いが来た。使いによると才蔵が首を吊って自殺を図ったが、未遂に終わったとのことだった。新之助は普請奉行の谷川重太郎に断って急ぎ下屋敷に戻った。布団に寝かされている才蔵は、新之助の顔を見るなり、顔を背け、「すまん」と言った。側に座り...


時代小説「欅風」(19)波江 老婆と出会う キリシタンの火あぶり目撃
波江は「三福」の仕事を少し早めに切り上げて家に帰った。最近の不景気のせいか、客足が減っている。江戸の普請景気も一段落したようだ。仕事にあぶれた者が増えている。盗み、殺しの話もよく耳にする。物騒な世の中になってきたものだ。店に来る客の中にもそれとなく、時には下卑た言葉で波江に...


時代小説「欅風」(18)普請現場 台風襲来
翌日は一日土嚢積みに明け暮れた。強い風が吹き始め、木っ端が舞い上がる。叡基はまず幕府普請方が居る小屋の周りに土嚢を積ませた。その後で普請現場で特に洗掘が進んでいるところに土嚢を積ませた。土を積んだ舟を横付けさせる船着場の浮き桟橋が流されないようにと何本もの綱で固定させた。...


時代小説「欅風」(17)新之助 普請現場で仕事開始
新之助は千住の普請現場に入った。大川が大きく蛇行している場所で洗掘されやすいところが普請現場だ。水の流れが絶えずぶつかるので、堰堤が抉られている。堰堤の内側の原っぱに普請小屋が何軒か立っている。端の方に大小便 の小屋がある。反対側に人足が寝泊りする大きな小屋が建てられていて...


時代小説「欅風」(16)波江・新しい生活-2
朝早く、波江は千恵を連れて京太、菊枝夫婦のところに挨拶に行った。 「私の知り合いの娘さんです。訳あって両親と離れ離れで暮らすことになりました。それで暫く預かることにしたいと思いますので、よろしくお願いします。決してご迷惑はおかけ致しません。千恵と言います」...


時代小説「欅風」(15)波江・新しい生活-1
波江は次の晩、千恵の来るのを待っていた。しかし、千恵はなかなか来なかった。 「どうしているだろう?」 暗がりの中から急に姿を現すのではないかと、探し出すように視線を送っていた。今晩はまだ客が誰も来ていない。 そこに新之助がやってきた。...


時代小説「欅風」(14)氏安と叡基 土木工事問答
法全和尚から叡基が戻ってきたという知らせが入った。氏安はすぐに使いを出した。法全和尚に連れられて叡基はやってきた。叡基は氏安の顔を見ると、軽く頭を下げた。 「叡基にございます」顔をあげるとまっすぐに氏安の顔を見つめた。 「叡基殿。お会いできるのを心待ちにしていました」そう言...


時代小説「欅風」(13)新之助 郷助と炉辺話その二
炉辺での食事の後、お茶を飲みながら、郷助は語り始めた。 「近頃江戸には諸国からどんどん人が集まってきています。諸国から江戸詰めのお侍、普請のための人夫、それを目当てにした物売り。お侍、町人が使う料亭で働く者達。大変な勢いですだ。そこで最近では青物もいろいろな場所で市が立つよ...


時代小説「欅風」(12)新之助・才蔵 郷助と炉辺話その一
青物組の新之助と才蔵の二人に郷助から、青物、土物の栽培について話したいことがあるので、家にお招きしたいとの申し出があった。 新之助は組頭の高田修理に許可を求めた。修理は「良く話を聞いてくるのだぞ」すぐに許可を出した。 翌日昼頃、郷助は下屋敷迄迎えに来てくれた。...


時代小説「欅風」(11)波江・身辺変化その二
二週間後、やっと床払いができた。まだ少しふらふらしたが、波江はまず母屋に挨拶に行った。「お陰様で元気になりました。何とお礼を申し上げたらいいのか・・・、本当にありがとうございました」 菊枝がいた。「まだ病み上がりなんだから、無理をしてはいけねえだよ」...


