時代小説「欅風」(73)郷助の作業場と源次の帰郷
郷助の作業場で働いている助手達は腕を上げていった。特に大船渡の源次はもともと大工だったこともあり、もう一人で車椅子、義手、義足をつくることができるようになっていた。最近は片足を無くした農民から松葉杖をつくってほしいとの注文もあった。毎日作業に追われる日々が続いていた。作業場...
時代小説「欅風」(72)新之助 商売の手ごたえを感じる
新之助が責任者になっている大和屋は繁盛とまではいかないが、客足の段々増えてきた。 ある日、先日絹の敷布を売った薬種問屋の主人がやってきて、言う。 「お陰様で、家内が喜んでいます。絹の敷布はとても気持ちがいい、と。ところで、敷布は毎日使いますとどうしても汚れてきます。自分で洗...
時代小説「欅風」(71)天岡の村請制と助郷制度改革
天岡は氏安から指示を受け、桑名44村の村請制と助郷制度についての改革案をまとめていた。割当てられた石高は検地で決まっている。石高の引き下げは認められる筋合いのものではなかった。石高は常に実際より高めに決められていた。以前九州の天領の一つ、天草で現実を考慮しない余りに高い石高...
時代小説「欅風」(70)才蔵の生き甲斐
一年が経った。 才蔵は郷助の畑で次郎太、孝吉と一緒に農作業に汗を流し、郷助の作業場で郷助を助け、最初は月1回だったが、最近では月二回、波江の寺子屋で和算を教えている。 寺子屋への行き帰り、才蔵は「我ながらこのような日がくるとは 思っていなかった」。労働に励み、人々の笑顔に接...
時代小説「欅風」(69)藩の祭・様子
狭野藩は一万石のまことに小さな藩だ。そのような藩を豊かにするためには、物産の輸出だけではなく、大阪、京都など近在の町から、また村から来てもらい、お金を落としてもらえるような仕組み、施設をつくらなければならない。 そのため年二回、狭山池での祭りを開催している。春、桜が満開の頃...
時代小説「欅風」(68)狭野藩 藩校開設
狭野藩で始まった塾は今年で三年目になる。毎年それぞれの塾は受講生で定員一杯になった。武士のための護民塾では大阪、京都、堺から高名な先生を招いて、講話を聞いた。題は、国を治めるということはどういうことか、物価はどのようにして決まるか、これからの社会はどのようになっていくか、な...
時代小説「欅風」(67)氏安 御料地担当の試みを受ける
氏安が黒書院で御料地担当の役目を仰せつかった日、利勝から次のような意外な言葉があった。 「暫く江戸城で御料地のための会合がある。藩には一ヶ月以上帰れぬやもしれぬ。あらかじめ書状を藩に送っておくように」 氏安は内心、それほどの打ち合わせが必要なのかと思ったが、顔には出さず、...
時代小説「欅風」(66)狭野藩 江戸に物産店開設
狭野藩では江戸に藩としての店を出すことにした。店を出すための準備は戸部新之助と天岡文七郎が担当した。藩主氏安の承認の元、戸部が直営店の最初の責任者となった。 新之助は三枝の手紙を送った。 「一年の予定だったが、あと一年江戸に留まり、狭野藩の店の立ち上げをすることになった。た...
時代小説「欅風」(65)郷助の作業場 将軍訪問
郷助の作業場には毎日のように客がやってきた。両足の無いものは家族に背負われながら、両腕を失った者は家族に付き添われながらやってくる。片足の者は松葉杖を突きながら、片腕の者は一人でやってくることもあり、家族と一緒に来ることもある。...
時代小説「欅風」(64)波江 養護院始める
波江は慈光和尚の助けを受けながら、寺子屋を続けている。子どもたちが将来世間でしっかり仕事をし、生きていけるようにしたいというのが二人の願いだった。波江が読み書きを教え、また炊事、洗濯、食事など家事について教えている。慈光和尚は仏の教え、偉人の話を子供達に分かりやすく話した。...