時代小説「欅風」(42)波江 寺子屋を始める
波江は隣の寺の農作業の手伝いを慈光和尚から頼まれ、千恵と一緒にやっていた。幸太も真面目に農作業をしていたが、身体が弱く長続きしなかった。顔がいつも青白かった。 「おばちゃん、おら疲れた」 そう言って寺の方に戻っていった。 「幸太ちゃんはどこか身体の具合が悪いのかしら」...
時代小説「欅風」(41)郷助 作業所設立
郷助の評判を聞いて、最近富みに車椅子、義足、義手の注文が増えていた。郷助はそれを何とかこなそうと、日中の農作業の時間を削って製作に励んでいた。 ある朝、次郎太は郷助に言った。 「兄やん。田圃と畑は俺と孝吉と才蔵さんでやるから、兄やんは農作業の時間を減らして身体を休めてけれ。...
時代小説「欅風」(40)叡基とおしのの暮らし
狭野藩の南方の小山に廃寺があった。厳光和尚からこの廃寺を修復して叡基の住まい兼寺にしたらどうかと氏安に相談があった。氏安は厳光和尚に案内されて廃寺に行き、その後直ちに修復作業に入った。 「叡基殿が住み、仕事をし、そして修行をされるところだ。しっかり普請するように」...
時代小説「欅風」(39)新之助 江戸出張
新之助は産物組の組頭代理となって以来、藩内の産物の資料を作成した。どこで何が、いつ頃、どのくらいの量とれるか、把握しておく必要があったからだ。そのため朝から夕方迄出歩いた。農民、商工業者は新之助のお役目を承知していたので協力的だったが、藩内の商人達は警戒していた。藩庁が殖産...
時代小説「欅風」(38)次郎太と孝吉 品種改良に取り組む
次郎太の住んでいるところでも新田開発が盛んに行われていた。雑木林が伐採され、新田に変わっていった。丘の下草は見境なく刈られ、緑肥として新田の土に鋤きこまれていった。そのため木も枯れ、禿山になっていった。 「兄やんも心配していたが、このまま新田の開発が進んでいったら一体どうな...
時代小説「欅風」(37)波江 琵琶法師に出会う
波江と千恵は夕方、その日収穫した青物、土物を背中の籠に入れて町中に行商に出た。 人の目には親子に見えたことだろう。波江は歩きながら「今日取った新鮮な青物ですよ~。お安いですよ~」家々の水屋の近くに立ち寄り声を張り上げた。波江にとっては何分初めてのことで緊張していたのだろう、...