

時代小説「欅風」(46) 氏安 叡基の寺を訪ねる
氏安は江戸城登城の一件を叡基に伝えるため、叡基に住む寺に向かった。使いの者を事前に送り、訪問の件を伝えていた。叡基は氏安と伴の者を認めると、出迎えに道を降りてきた。 「わざわざお越しくださるとは恐縮に存じます」 部屋に通された氏安は簡素だが、すがすがしい趣きに思わず言った。...


時代小説「欅風」(45) 氏安 幕府に呼び出される
大阪城真田丸の片付け普請の後、幕府からの下命はなく、氏安は平穏の日々を送っていた。しかし心中では「このまま何も無いということはないだろう」と思っていた。 そこへ幕府から、直ちに江戸城に来るようにとの書状が届いた。署名は「老中 土井利勝」となっていた。...


時代小説「欅風」(44) 郷助、次郎太と孝吉と才蔵に青物市場談話
郷助は作業所の建設が一段落した後、青物市場について話しておきたいと夕餉の後、三人を集めた。次郎太、孝吉、才蔵を前にして、郷助は話し始めた。 「今迄、俺がやってきたことを三人に話しておきたいと思うだ。今日は青物の取引について話すので、聞いてくれ。最近いろいろな変化が生まれてい...


時代小説「欅風」(43) 天岡 大阪で学者を探す その1
久宝寺町の狭野藩宿舎についた文七郎は、部屋に落ち着くと早速懐から紙を取り出し、思案に入った。 「殿からはあのように言われたが、我が藩に相応しい学者がいるものだろうか。まずは明日、懐仁堂に行って徳庵殿に相談してみよう。それからだ」...


時代小説「欅風」(42)波江 寺子屋を始める
波江は隣の寺の農作業の手伝いを慈光和尚から頼まれ、千恵と一緒にやっていた。幸太も真面目に農作業をしていたが、身体が弱く長続きしなかった。顔がいつも青白かった。 「おばちゃん、おら疲れた」 そう言って寺の方に戻っていった。 「幸太ちゃんはどこか身体の具合が悪いのかしら」...


時代小説「欅風」(41)郷助 作業所設立
郷助の評判を聞いて、最近富みに車椅子、義足、義手の注文が増えていた。郷助はそれを何とかこなそうと、日中の農作業の時間を削って製作に励んでいた。 ある朝、次郎太は郷助に言った。 「兄やん。田圃と畑は俺と孝吉と才蔵さんでやるから、兄やんは農作業の時間を減らして身体を休めてけれ。...


時代小説「欅風」(40)叡基とおしのの暮らし
狭野藩の南方の小山に廃寺があった。厳光和尚からこの廃寺を修復して叡基の住まい兼寺にしたらどうかと氏安に相談があった。氏安は厳光和尚に案内されて廃寺に行き、その後直ちに修復作業に入った。 「叡基殿が住み、仕事をし、そして修行をされるところだ。しっかり普請するように」...


時代小説「欅風」(39)新之助 江戸出張
新之助は産物組の組頭代理となって以来、藩内の産物の資料を作成した。どこで何が、いつ頃、どのくらいの量とれるか、把握しておく必要があったからだ。そのため朝から夕方迄出歩いた。農民、商工業者は新之助のお役目を承知していたので協力的だったが、藩内の商人達は警戒していた。藩庁が殖産...


時代小説「欅風」(38)次郎太と孝吉 品種改良に取り組む
次郎太の住んでいるところでも新田開発が盛んに行われていた。雑木林が伐採され、新田に変わっていった。丘の下草は見境なく刈られ、緑肥として新田の土に鋤きこまれていった。そのため木も枯れ、禿山になっていった。 「兄やんも心配していたが、このまま新田の開発が進んでいったら一体どうな...


時代小説「欅風」(37)波江 琵琶法師に出会う
波江と千恵は夕方、その日収穫した青物、土物を背中の籠に入れて町中に行商に出た。 人の目には親子に見えたことだろう。波江は歩きながら「今日取った新鮮な青物ですよ~。お安いですよ~」家々の水屋の近くに立ち寄り声を張り上げた。波江にとっては何分初めてのことで緊張していたのだろう、...


