

時代小説「欅風」(56)才蔵と波江の出会い
才蔵は少しづつ生きる自信を持ち始めていた。「自分も人の役に立つことができる」この思いをやっと実感として持つことができた。しかし、一方で才蔵は自分自身のこころの弱さを抱えたままでいた。それは人には言えないことでもあった。以前次郎太には話したことがあった。確かに頭ではどうしたら...


時代小説「欅風」(55)郷助の作業場
郷助は次郎太と孝吉そして才蔵に田畑を任せ、自分は作業場で車椅子、義手、義足の製作に追われていた。注文が日ごとに増えていった。郷助は作業を手伝う弟子の育成にも努めていた。そして今迄全部の部品を一人でつくっていたが、作業を幾つかの部分に分けて、それぞれの部分を助手に担当させた。...


時代小説「欅風」(54) 氏安 天領桑名村立て直し その二
氏安は床下に人の気配を感じた。天岡と叡基に声をかけた。「今日は日和も良い。どうだ、外に出て、歩きながら話の続きをすることにしょう」三人は外に連れ立って出た。藩庁の横に大きな池がある。狭山池の水を引き込んで作った約二反分ほどの大きさで、瓢箪のような形をしていて真ん中に赤い橋が...


時代小説「欅風」(53) 慈光和尚 人生行路その二 千恵との話
慈光和尚は波江の急に何かを思いだしたような顔を見て、話を中断した。 「どうかされましたか」 「いいえ、何でもありません。失礼しました」 波江は慌てて答えた。 「そうですか。それでは話を続けさせて頂きます。私は琵琶法師の話を聞いて、本当にそんな人がいるもんだろうか。自分の罪の...


時代小説「欅風」(52) 新之助 店勤め
萩屋の主人、徳兵衛から新之助に萩屋で仕事をするにあたって話があった。 「戸部様の店でのお名前はお客様の手前もありますから、失礼かと存じますが新蔵とさせて頂きます。急ぎの時は新さんとお呼びすることもあろうかと思います。いかがでしょうか。立場は番頭の繁蔵の付き人ということでお願...


時代小説「欅風」(51) 慈光和尚の人生行路 その一
慈光和尚は穏やかな笑顔で波江を迎え、本堂の隣の部屋に案内した。 「最近、檀家から新茶を頂きましてな。ついてはいつも寺の畑の世話でご苦労をお掛けしている波江さんとご一緒に茶を飲みたいと思っていたところです。お声をかけたいと思っていました。これも御仏のお導きでしょうか」...


時代小説「欅風」(50) 桑名村の建て直し その一
天岡は部下の松本数馬を連れて桑名村に向かった。今回の狭野藩の立場はあくまで郡代の相談役と言う立場であった。郡代の澁谷達之進はいかにも役人風の男で、実力というより回りの引きで出世してきたような人物だった。口癖は「それは先例があるのか」「波風を立ててはいけない」「それはワシの責...


時代小説「欅風」(49) 新之助 江戸商人になる
江戸小田原町近くに呉服店「萩屋」がある。店主の徳兵衛は既に50歳を過ぎている小柄な人物だった。小田原町には繁盛している魚屋が数軒あり、江戸前の魚介類が毎朝店先に並べられ、威勢の良い売り子の声が途切れることがない。魚屋の先には小間物屋が続き、その隣に普段着用の呉服屋「萩屋」が...
私の徒然草 第7話「一日一日を区切って生きる」
今回は「一日一生」というテーマで書きたいと思いますが、これはネットで調べると割と出ています。この言葉の語源は何かと思って調べてみたのですが、すぐには見つかりませんでした。ネットなどの解釈を見ると「今日を最後の1日と考えて、悔いのないように生きましょう」というものがありました...


時代小説「欅風」(48) 波江の苦悩と逃れの道
ある月も雲に隠れた晩、波江は戸にシンバリ棒を掛けるために土間に下りた。その時、人の慌しい足音が聞こえた。波江の住んでいる離れの近くに人がいるらしい。波江はそっと戸を開けて、外を覗った。誰もいない。外に出てなお確かめようとした時、家の影に蹲っている人の姿があった。足を怪我して...


