

時代小説「欅風」(25)大川普請竣工 叡基事故に泣く
新之助は普請小屋で寝起きしていた。毎日忙しく過ごしていた。もう直ぐ普請も終わる。そうすれば元の生活に戻ることができる。ある晩、久し振りに夢を見た。妻の三枝と八重と一緒に狭山池の土手に座り、夕焼けを見ていた。握り飯と竹筒に入れた井戸水を三枝は持ってきた。池の水面に夕焼けが映り...


時代小説「欅風」(24)切手引き受け軌道に乗るか 郷助組の活躍
天岡文七郎は庄屋と米商人一人一人を訪問し、切手の裏づけとなる米の提供を求めていた。 断られた庄屋にもう一度ひざ詰めで説得を試みていた。諦める訳には行かないのだ。 庄屋の松田仁作はほとほと困ったという顔をして、 「天岡様がいくら大丈夫だと言われても、そもそもお出しする米があり...


時代小説「欅風」(23)狭野藩国許の不作 叡基千住大川で奮闘
狭野藩の稲作は夏の長雨のためかイモチ病が流行り、例年を下回る不作となった。氏安は飯野家老から報告を受けた後、しばらく考え込んだ。領民を飢えさせてならない、これが第一だ。 狭野藩は四公六民政策をとっており、藩の財政状況も一段と厳しくなる。しかし切手を財政の赤字補填のために使う...


時代小説「欅風」(22)波江 寺の一角の小さな畑を手伝う
波江は「三福」の店を畳むことを考え始めていた。柴橋和左衛門の店である「花橘」での勤めは続けたいのだが、妾になる話を断った以上、これからどうなるか不安だった。そんなある朝のこと、波江が畑仕事と千恵と一緒にしていた時、畑の隣に立っている寺の和尚が声をかけてきた。...


時代小説「欅風」(21)狭野藩 切手不調
天岡文七郎は、今日は庄屋の平清次郎ところに行き、ひざ詰めで切手の説明をした。 「理屈は良く分かりますが、実際それができるかどうかは別問題です。切手は要するに藩札ということでしょうか。藩札なら他の藩でも藩の不足のために使われています。去って還らざる、ということになるのでは。そ...


時代小説「欅風」(20)木賀才蔵 自殺未遂
千住の普請場に居る新之助のところに下屋敷から使いが来た。使いによると才蔵が首を吊って自殺を図ったが、未遂に終わったとのことだった。新之助は普請奉行の谷川重太郎に断って急ぎ下屋敷に戻った。布団に寝かされている才蔵は、新之助の顔を見るなり、顔を背け、「すまん」と言った。側に座り...


時代小説「欅風」(19)波江 老婆と出会う キリシタンの火あぶり目撃
波江は「三福」の仕事を少し早めに切り上げて家に帰った。最近の不景気のせいか、客足が減っている。江戸の普請景気も一段落したようだ。仕事にあぶれた者が増えている。盗み、殺しの話もよく耳にする。物騒な世の中になってきたものだ。店に来る客の中にもそれとなく、時には下卑た言葉で波江に...


時代小説「欅風」(18)普請現場 台風襲来
翌日は一日土嚢積みに明け暮れた。強い風が吹き始め、木っ端が舞い上がる。叡基はまず幕府普請方が居る小屋の周りに土嚢を積ませた。その後で普請現場で特に洗掘が進んでいるところに土嚢を積ませた。土を積んだ舟を横付けさせる船着場の浮き桟橋が流されないようにと何本もの綱で固定させた。...


時代小説「欅風」(17)新之助 普請現場で仕事開始
新之助は千住の普請現場に入った。大川が大きく蛇行している場所で洗掘されやすいところが普請現場だ。水の流れが絶えずぶつかるので、堰堤が抉られている。堰堤の内側の原っぱに普請小屋が何軒か立っている。端の方に大小便 の小屋がある。反対側に人足が寝泊りする大きな小屋が建てられていて...


時代小説「欅風」(16)波江・新しい生活-2
朝早く、波江は千恵を連れて京太、菊枝夫婦のところに挨拶に行った。 「私の知り合いの娘さんです。訳あって両親と離れ離れで暮らすことになりました。それで暫く預かることにしたいと思いますので、よろしくお願いします。決してご迷惑はおかけ致しません。千恵と言います」...